概要
クヌギ、コナラ原木を使っての椎茸栽培もある程度慣れてきて、そこそこ安定して収穫できるようになってきました。
備忘録も兼ねて、植菌方法の紹介と雑菌に負けないコツなどを紹介したいと思います。
ただし、プロではありませんので間違いなどがあるかもしれませんが、ご容赦ください。
原木の樹種と選び方
まずは自分で植菌をする上で結構大切な原木の入手に関してです。
一般的には、クヌギかコナラが多く使われていて、簡単に特徴をまとめるとこんな感じです。
- クヌギ:乾燥が早く、菌糸の伸長が遅い。樹皮がゴツゴツしており雑菌の侵入も多い。よってホダ化(椎茸が生える状態の原木になること)が難しい。ただし、ホダ化がうまくいくと、コナラ原木よりも1.5倍~2倍程度の収量があり、品質も高い
- コナラ:ホダ化が容易。初心者向けではあるが、安定して栽培できるので業者も多く使用している。
僕はクヌギを多く使用していますが、瀬戸内海地方では雨が少なく乾燥がちなのとで、確かに難しく、湿度を上げるとトリコデルマなどの害菌に侵されやすいし、そのままでは乾燥しすぎたりします。
一般の人がまず困るのは、どうやって原木を入手するか。
自分の山があって、クヌギやコナラが生えていれば(手間は掛かりますが)楽です。
その場合は、秋頃に根本から伐採し、そのまま乾燥させておきます。冬になったら1mほどに切り分け(玉切り)て、運び出して使います。
玉切りしたあとはできるだけ早く植菌します。切り口が無防備なため、そこから害菌が侵入しやすいためです。そのあたりは後述します。
さて、山がない人は原木を買ってくることになります。
ホームセンターに行けば、冬になれば椎茸栽培用にコナラやサクラの原木が売られています。
ちょっと割高ですが、少量であればそれらを買うのが早い。(コナラは椎茸用、サクラはナメコ用と考えてください)
ホームセンターでは管理状態が悪くて乾燥しすぎなことが多いですが、コナラであれば失敗しにくいので、なんとかなります。
他にも、最近はHPなどで通信販売している林業家の方もおられますので、近くにそういう所があればラッキーですね。
原木の樹皮を見て、品種を見分けるのは難しいのでここでは書きません。僕もある程度わかりますが、区別がつかないようなものもあります。
特にクヌギとアベマキなどは、区別がつきません(^^ゞ
これは僕が今年植菌する原木です。
今回はほとんどコナラですが、一部クヌギが混じっています。
太さは10~20cmほどが良いですが、20cmともなるとかなり重いです。特に、椎茸を発生させるために水に漬けると、更に重くなって移動が大変です(^^ゞ
ただ、菌の回りは時間がかかりますが、原木が太いほうが大きなキノコを長期間収穫できます。
なお、ある程度原木を乾燥させてからでないと植菌しても菌が活着しない、という話もありますが、そんなことはないと思っています。秋山式などでは早期植菌を推奨していますし、原木が乾燥していないと植菌した菌が死滅する、というわけではないので、いずれ木が乾燥してきて伸長に適した水分量になった頃に伸び始めます。
むしろ、乾き過ぎた場合の害菌リスクを考えると、早めに植菌するほうが安心だと思います。
木口の害菌対策
さて、特にクヌギを選んだ場合ですが、木口(両端の切ったところ)から乾燥しやすいということと、同じく害菌は木口から侵入することが多いと書きました。ですので木口を保護してやると成功率を上げることができます。
いくつか方法はあるのですが、簡単にできそうなのを書いてみます。全部試したわけではありませんが、ある程度の効果はあります。
- 木口に余ったオガ菌を盛り、乾燥しないようにビニールなどで密封する
- できるだけ木口に近いところに数多く植菌する
- 木口に木工用ボンドを塗る
- 木口をバーナーで炙り消毒+炭化させて害菌の侵入を防ぐ
大量に栽培している業者ではこんなことは出来ませんが、家庭での数本程度の栽培であり、確実に成功させたい場合はかなり効果的です。椎茸菌が原木に広がるまでの間保てばいいので、一時的な対策で十分です。
防腐剤などを木口に塗ると木の中に染み込み、椎茸の伸長に影響する可能性があるのでやめたほうが良いと思います。ただ、木口に侵入してしまった害菌を見つけたとき、殺菌剤のトップジンMペーストを患部に塗ったことがありますが、それでも害菌退治の効果はありました。
同じように、樹皮にキズがついているところからも雑菌が入りやすいので、上記の対策をするか、封蝋で保護するなどしたほうが良いでしょう。
写真は昨年植菌したクヌギですが、植菌した場所から木口に伸長するよりも早く、盛ったオガ菌が木口に根を張ってくれました。
椎茸の原木栽培を成功させるための大事なことは「いかに害菌を防ぐか」と「いかに早く椎茸菌を蔓延させるか」の2点です。
両方出来ればいいですが、片方でもなんとかなります。害菌が入らないようにさえしておけば椎茸菌の蔓延は遅くても成功しますし、椎茸菌が早く蔓延してくれれば、害菌の侵入を防ぐことができます。
椎茸菌の入手など
原木が入手できる算段が付けば、次は椎茸菌の入手です。
まず、椎茸菌のタイプには、植菌方法によって大きく分けて3パターンあります。
・種駒:椎茸菌を蔓延させた木の駒を、原木に開けた穴に差し込み、金鎚で打ち込む
・オガ菌:おが屑に菌を培養し、それを専用の植菌棒などで原木に開けた穴に入れ、封蝋で蓋をする
・成型駒(成型菌):オガ菌を成型して種駒のような形にし原木開けた穴に差し込むだけ。蓋は発泡スチロール
ホームセンターには、よほどマニアックなところでない限り、種駒しか売ってません。
木駒は手軽でいいのですが、椎茸菌の伸長が遅く、一般的には植菌してから2夏経過後にしか椎茸は生えてきません。つまり、その分害菌に入られるリスクも大きくなります。
成型駒は穴を開けて手で差し込むだけなので、種駒より楽です。
ホームセンターでも、大きいところには富士種菌の菌王2号(F206)の成型駒が置いてあるかもしれません。(割高ですが…)
ただ、僕も成型駒を使ったことがありますが、発泡スチロールで蓋をするだけなので、どうしても隙間から害菌や虫が入りやすく、失敗率が高いように思います。
近年、僕がいつも買っているのはオガ菌です。
瓶におが屑が詰められ、その中に菌が培養させられています。
それを専用の植菌棒というものを使って一定量ずつ原木に開けた穴に植菌し、封蝋(ロウと松ヤニを混ぜて作られたもの)を溶かして塗り、蓋をします。
植菌作業はとても面倒で、専用の道具にもお金がかかります。
ですが、3パターンの中で最も害菌に強く、椎茸菌の伸長が早いためホダ化が容易です。
うまく管理できると、冬に植えてその年の秋には椎茸の発生があります。
ちなみに、他に裏ワザ?として、成型駒を買って発泡スチロールを外して蓋だけ封蝋を使う、という手もあります。これだとオガ菌に近いですね。
富士種菌などでは、最初から発泡スチロールの蓋のないタイプの成型駒も販売されいます。
タイプが決まれば、入手しましょう。
農協などで取り扱っているメーカーもありますし、HPで直接自社販売しているメーカーもあります。
代表的なメーカーとそのHPを記載しますので、各自調べてください。なお、僕は富士種菌から直接買うことが多いです。
菌の発生気温によって、低温菌、高温菌、周年性などがあります。他にも、干し椎茸向け、生食向けなどもあって悩むと思います。
慣れるまでは、周年性の生食向けを選ぶのが良いと思います。
僕が栽培した中では、富士種菌のF206などは菌の回りが早くて味も良く、初心者向けだと思います。
調べてみると菌も結構高いですよね?
そう、椎茸栽培にはなかなかお金がかかるのです(なにを今更…)
さあ、植菌しよう
原木と椎茸菌、資材を準備すれば、椎茸の植菌が始められます。
資材は、成型駒であれば
・電動ドリル
・専用キリ
だけで大丈夫です。
種駒であれば、それに追加して
・金鎚
が要ります。
オガ菌であれば、更に
・植菌棒
・封蝋
・封蝋を溶かすコンロ、小鍋
・封蝋を塗る筆かスポンジ
が必要です。
専用キリは、成型駒・種駒であればその指定されているサイズのものが必要です。
オガ菌では使用する植菌棒の指定サイズが必要です。
普通の木工用ドリルでも大丈夫ですが、穴あけの深さを一定にする必要がありますので、ドリルビットに適当な厚みの木片などを指してそれ以上深く穴が空かないようにしましょう。
穴あけの深さは、一般的にはメーカーから指定されています。
種駒の場合は木駒の長さより長め(奥にスペースができるくらい)で、成型駒の場合は成型駒の長さと同じか少し長め、オガ菌の場合はピッタリおが屑が収まる深さです。概ね、20mm~25mmくらいでしょうか。
電動ドリルは少量の原木であれば、ドリルドライバーやインパクトドライバーでも穴あけができます。
ただ、1個の穴あけにとても時間がかかるので、穴あけ専門のドリルがあると便利です。僕が使っているのはDIY用のリョービD-1100VRというものですが、これで十分なパワーがあります。高速回転ができる椎茸専用のドリルも販売されていますが、そこまでは無くても大丈夫です。
穴の数は原木の太さによりますが、直径の2~4倍くらいと言われています。
つまり、直径10cmの原木で、20穴~40穴ということになります。
ただ、僕の場合は、もう少し多めに打ち込んでいます。1列を7穴と6穴の互い違いで、直径10cmだと計8列の52穴という数を基準にしています。
1列の間隔は4cmくらい取っています。
簡単に図示しましたので、参考にしてください。ちょっとくらいズレていても全く問題ないですので、適当にバンバン開けてください(笑)
追加で、枝があったところや樹皮にキズが有るところなどは、そこから雑菌が入りやすいので、近くに幾つか穴を開けておくといいでしょう。
穴あけが終わったら、椎茸菌を植菌していきます。
植菌棒でオガ菌を植菌し、溶かした封蝋を塗ったらこんな感じになります。
封蝋をする際には、少しでも穴が開いていると、そこから虫が卵を産み付けたりしてオガ菌が食い散らかされますので、きっちり蓋をするようにしてください。
仮伏せ
植菌が終わると、仮伏せをします。
仮伏せは、害菌が活動をし始める暖かくなるころまでに、植菌した菌がしっかり原木に回るように温度、湿度を保つのが目的です。冬場は寒風によって原木が乾燥しすぎてしまい、椎茸菌がやられてしまうこともあります。
山林で栽培をする際には、平積みにした原木の上に杉の枝などを被せて風除け・日除けにします。
僕は北東の庭に横積みにして、ブルーシートで覆って仮伏せをしています。
こんな感じに向きを変えて積み上げます。下にブロックなどを置いて、地面に直接付けないようにしましょう。
あまり高くしすぎない方が良いです。
積み上げたらブルーシートで覆いをします。
乾燥気味な場合は、ときどき覆いを外して散水したり、雨に当てたほうがいいでしょう。
梅雨頃まで、こんな感じで管理します。
遅くともその頃には、菌糸紋が木口に出てきていると思います。
注意点として、春になって日差しが強い日はブルーシート内が熱くなりすぎるので、適度に通風を取ってあげてください。30度を超えると危険信号で、40度になると死滅してしまいます。
本伏せ
仮伏せでしっかり菌糸紋が出ているとほぼ成功したようなものです。クヌギの場合は時間が少しかかるので、出ていないかもしれません。
とはいえ、ある程度暖かくなってきたら、本伏せに移行します。
仮伏せの状態では通風が悪く、湿度が高くなりすぎますので、ある程度立てて並べるようにします。
この項目は後日追記しますね。
成功すると…
オガ菌の場合はまずは植菌した穴から生えてきますので、うまく管理できれば1年後にはこんな感じで椎茸が生えてきます。(この品種は富士種菌のF103です)
是非チャレンジしてみてください。